子育て世帯の引っ越しガイド
自治体の奨学金返還支援は対象と金額と条件の順で確かめます
市区町村による奨学金の返還支援は実在しますが、引っ越すだけで利用できる制度ではありません。住む場所や勤務先、職種などの条件がそろって初めて支援を受けられる仕組みです。こそだて・まなびの調査台帳では、12県138自治体の公式ページを確認し、46自治体で制度を確認しています。
公開日: 更新日:
制度の名称にかかわらず中身の条件を順番に確かめます
奨学金返還支援(自治体が奨学金の返還を助ける制度のこと)は、名称が同じでも内容は市区町村ごとに異なります。制度名が補助金(特定の目的のために交付されるお金のこと)や助成金となっていても中身は別です。利用できるか調べる際は、対象の奨学金、支援額と期間、住まいと仕事の条件を順番に確認します。
北海道根室市には「根室市奨学金返還支援補助金」という制度があります。これは市内の事業所に正社員として就職した人への支援を目的としたものです。要綱(役所が定めた詳しい規則のこと)には次の文章が記載されています。
「この要綱は、市内に所在する事業所に正社員として就職した者で、大学等在籍中に貸与を受けた奨学金を計画的に返還している者に対し、当該奨学金の返還を支援する補助金(以下「補助金」という。)を交付することにより、本市の産業を担う人材の確保及び定着を促進し、中小企業者等の経営基盤の強化を図ることを目的とする。」
このように、制度の対象は奨学金を返還していることだけで決まるわけではありません。制度の名称から中身を判断することを避け、対象となる奨学金の種類、金額、期間、居住や就業の条件を一つずつ確認して進めます。
自分が返還している奨学金の種類を最初に確かめます
最初に見る項目は、自分が返還している奨学金が支援の対象に含まれるかどうかです。同じ奨学金返還支援であっても、公式ページや要綱における対象奨学金の表現には幅が存在します。
公式ページの記載は市区町村ごとに違いがあります。根室市のように「独立行政法人日本学生支援機構の学資貸与金」と具体的に書く例もあれば、北海道津別町のように「奨学金」とだけ書く例もあります。それぞれの記載の違いは下の表にまとめています。
公式ページの表記だけでは対象と判断できない場合があるため、要綱に書かれた定義を確かめます。ここを最初に確かめておくと、金額や住まいの条件を詳しく調べたあとの段階で対象外だと判明する行き違いを防げます。
| 自治体・制度 | 対象奨学金の記載 |
|---|---|
| 北海道根室市「根室市奨学金返還支援補助金」 | 「独立行政法人日本学生支援機構の学資貸与金」「地方公共団体等が大学等の生徒・学生等に対して貸与する資金」 |
| 北海道津別町「津別町奨学金返還支援事業助成金制度」 | 「奨学金」のみ |
| 北海道岩内町「岩内町奨学金返還支援補助金」 | 「(独)日本学生支援機構法に規定する第一種・第二種学資貸与金」「都道府県、市町村等が設ける貸与型奨学金」「その他町長が認める貸与型奨学金」 |
岩内町のように第一種・第二種まで明示する制度もあれば、津別町のように公式ページ上では「奨学金」とだけ記載されている例もあります。そのため、日本学生支援機構の貸与型奨学金を返還中だから対象になる、と制度名だけから決めることはできません。
公式ページの一覧や概要で対象範囲が読み取れない場合は、要綱などで対象奨学金の定義を確認する必要があります。ここを最初に確認しておけば、金額や居住条件を調べた後で対象外だと分かる順序を避けられます。
支援総額と支援される年数は別々に計算して確かめます
対象の奨学金に該当することを確認したら、次に支援総額と支援年数を確認します。調査台帳で支援総額が判明した27制度は3万円から240万円、支援年数が判明した31制度は3年から15年までの開きがありました。
各制度を比較する際は、「支援総額÷支援年数」を計算して1年あたりの支援規模を算出します。根室市は支援総額120万円で支援期間は5年間です。津別町は支援総額120万円で最長10年間です。同じ120万円の支援であっても、支援を受けられる期間は異なっています。
津別町の公式ページには「奨学金の返還額(年間12万円上限)を最長10年間支援いたします。」と記載されています。このように年間の上限額も支援内容を決める要素です。最大いくらかという金額とともに、何年間か、年間の上限が設定されているかを分けて確認します。
実際に暮らす条件と働く条件を重ね合わせて確かめます
金額を確認したあとは、その地域で暮らし、働くときの条件を確かめます。調査台帳では、居住要件(その地域に住む条件のこと)を確認できた制度が34、就業要件(その地域で働く条件のこと)が30ありました。年齢上限を定めている制度は25、職種を限定している制度は9あります。
引っ越す予定があることだけで支援対象になるとは限りません。住む場所に加え、勤務先の所在地、正社員などの雇用形態、仕事の職種、年齢といった複数の条件が組み合わされている場合があります。
北海道岩内町の制度では、居住要件と就業要件があり、年齢上限は35歳です。対象職種は介護支援専門員、栄養士、技師、保健師、看護師、保育士に限定されています。支援総額は180万円、期間は10年ですが、金額を確認するとともに自分の職種や年齢が条件に合致するか確かめます。
まずは都道府県ごとの奨学金返還支援一覧ページで候補となる市区町村を絞り込みます。次に掲載データの基準日を確かめたうえで、各市区町村の公式ページにある要綱を開き、現在の詳しい条件を確認してください。関連する読みものとして、地方移住と就業支援の手続きを解説した記事もあわせて読むと理解が深まります。
この記事の数字について、観測されていること
- 2020年4月に授業料等減免と給付型奨学金の拡充を行う修学支援新制度が始まってから、低所得世帯の子どもの進学は増えたと報告されていますか?国の縦断調査で、新制度の直前に高校を卒業した1月生まれと開始年度に進学時期を迎えた7月生まれを比べた分析では、世帯年収210万〜370万円の層で7月生まれの高等教育進学率が9.2ポイント高く、210万円以下の層では有意な差はみられていません。別の保護者調査は、進学率の増減を直接推定したものではなく、世帯収入による進路の差は縮まっていないと報告しています。
- 貸与型奨学金を借りられる人が増えたり、高校在学中に採用が決まったりすると、大学進学は増えると日本の研究で報告されていますか?研究ごとに中身が違います。1999年の収入基準の変更(1996〜2003年のデータ)では、新たに貸与を受けられるようになった層の短大・大学進学確率の上昇が変更の直後に限られました。予約採用に大学進学を促す効果があったと報告した研究が1本あり(2005〜2011年の調査など)、別の研究は2005年11月の高校3年生の低所得層で予約採用と大学志願の関連(因果効果ではない)を報告しています。
- 奨学金を受けている大学生は、受けていない学生より中退しにくいと研究で報告されていますか?結果は研究によって割れています。日本では1973〜2005年入学の主に貸与型の時代の全国集計で、受給率の上昇が1〜2年遅れて大学中退率の低下と結び付いていたという関連の報告です。米国では、受給資格や給付額の境界付近の学生(フロリダ州、テキサス州の4年制大学の初年次の低所得層)でその後の学位取得の増加が報告される一方、ウィスコンシン州の実験では4年制大学の2年間の在学継続が1.7ポイント増えたものの、学位取得への効果はごく小さいという結果でした。
- 貸与型奨学金や学生ローンを借りた人は、結婚や出産の時期、子どもの数、住宅の取得に違いがあると報告されていますか?日本で確認できた研究は1本で、とくに2年制の学校を卒業した女性で、貸与型奨学金を受けたグループは受けなかったグループより結婚の時期が遅く、子どもの数も少なかったと報告しています。米国では、女性の第1子の出産の遅れとの関連(借入額がかなり大きい場合に目立つ)と、学生ローンが10%増えると離学後5年間の住宅取得率が1〜2ポイント下がったという報告があります。
- 日本の給付型奨学金や授業料減免を受けて進学した人は、卒業後の就業や所得が変わると研究で示されていますか?日本の給付型奨学金・授業料減免については、今回確認した研究からは示されていません。新制度の研究が扱うのは進学したかと進学後に給付を受けたかまでで、卒業直後の収入を比べた日本の研究は主に貸与型が対象です。米国では、テキサス州の公立4年制大学の初年次の低所得の学生で、連邦の給付額の境界による追加給付の資格がその後の所得を増やしたという報告があります。
- 大学などを中退した人の理由として、経済的な困窮はどのくらいの割合で集計されていますか?文部科学省の2024年度の調査では、中退者の最も中心的な理由が「経済的困窮」に分類されたのは13.2%でした。「その他」「不明」を除くと、最も多いのは「転学・進路変更等」の22.3%です。
- 奨学金と進学・中退・卒業後の暮らしの関係は、どこまで調べられているか給付型と貸与型の奨学金について、進学、在学中の中退、卒業後の暮らしに分けて、研究と国の統計が報告している範囲を整理します。
- 研究検証台帳回答が参照した研究の標本・報告・限界・一次資料を確認できます。
- 出典
- こそだて・まなび「奨学金返還支援制度 調査台帳」
- 基準日
- 2026年8月11日現在